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東京地方裁判所 昭和27年(モ)11715号 判決

債権者 天野修一 外二名

債務者 東京港湾倉庫株式会社

一、主  文

当裁判所が債権者債務者間の昭和二十七年(ヨ)第五九二七号株主権仮処分申請事件につき昭和二十七年十一月七日なした仮処分決定はこれを取消す。

債権者の本件申請はこれを却下する。

第一項に限り仮に執行することができる。

訴訟費用は債権者の負担とする。

二、事  実

債権者等訴訟代理人は、主文第一項記載の決定を認可する、訴訟費用は債務者の負担とする、との判決を求め、その申請理由を次のとおり述べた。

債権者天野修一は申請外相場精一郎に対し、(一) 昭和二十五年十二月二日に弁済期を昭和二十六年一月三十日と定めて金二百五十万円を、(二) 昭和二十五年十二月六日に弁済期を昭和二十六年二月三日と定めて金五十万円を、(三) 昭和二十五年十二月十四日に弁済期を昭和二十六年二月十一日と定めて金二百万円を、(四) 昭和二十五年十二月十五日に弁済期を昭和二十六年一月十三日と定めて金百万円を、(五) 昭和二十五年十二月十九日に弁済期を昭和二十六年二月十六日と定めて金八十万円を、(六) 昭和二十五年十二月三十日に弁済期を昭和二十六年二月二十七日と定めて金六十万円を、それぞれ貸与し、その担保として相場が代表者であつた債務者東京港湾倉庫株式会社の株券を、(一)につき十万株、(二)につき二万五千株、(三)につき十万株、(四)につき五万株、(五)につき四万株、(六)につき三万株、合計三十四万五千株を、何れも金銭貸与と同時に前名義人の白地裏書のまま受領した。そしてそれぞれの債務が期限に弁済されないときは、債権者天野は代物弁済として右株式を取得する特約であつたが、相場は債務の弁済を怠つたので債権者天野は順次右株式全部を取得したものである。債権者天野は申請外加藤治三郎に対しても昭和二十五年八月二十一日金八十六万円を貸与し、その担保のために債務者会社の株式五千株その他を受領したが、同様債務を弁済しなかつたので債権者天野が代物弁済としてこれを取得した。債権者天野は右のようにして取得した債務者会社の株式三十五万株の内五万五千株を債権者杉山玉夫に、五万株を債権者野口国蔵に何れも昭和二十六年六月初旬譲渡し株券の引渡を了し、なお二百株を他に売却し、三千株を伊藤友衛名義に名義書換をしたが、ついで債務者会社に対し自己名義で、昭和二十六年六月二十二日二万株(別紙<省略>第一号目録)、同年七月二日十一万六千八百株(別紙第二号目録)の名義書換を請求したが、債務者会社は右株券を受領したままでこれに応じない。更に債権者天野は昭和二十七年一月三十日十万株(別紙第三号目録)の名義書換を請求したが、債務者会社はこれを拒絶して返戻してきた。なお、五千株(別紙第三号目録)は、債務者会社が名義書換に応じないことが明白なので、これを請求しないままである。又債権者杉山玉夫は債務者会社に対し昭和二十六年六月二十七日五万五千株(別紙第四号目録)を、債権者野口国蔵は同月二十二日同様五万株(別紙第五号目録)を、何れも名義書換を請求したが拒絶された。相場は債務者会社をして名義書換を拒絶させた弁明として自分が買戻すから待つて貰い度いと述べているが、相場にその資力がないのみでなく、債務者会社は多額の債務を負担し、経営状態が不良であり、相場は会社の実権を他人に譲つてしまつた。もし債権者等が債務者会社に対する上記株式の名義書換請求訴訟の判決確定に至るまで株主権の行使ができないと、大なる損害を被るおそれがあるので、仮処分を申請した処、昭和二十七年(ヨ)第五九二七号事件として昭和二十七年十一月七日各株式につき名義書換請求事件の判決確定に至るまで仮に右各株主権の行使を認める旨の仮処分決定がなされた。この決定は至当なものであるからこれを認可する旨の判決を求める。と述べ、債務者の主張事実に対して、債権者天野が本件株券の交付を受けた趣旨が債務者主張のようなものであることは否認する。

債権者杉山が債権者天野の親戚であり、債権者野口が債権者天野の友人であることは認めるが同債権者等が、債権者天野に権利がないことを知つて株券を取得したとの事実は否認する。仮令同天野が無権利者であつたとしても商法第二二九条に基いて株主権を取得している。又裏書欄に譲渡人の捺印があれば署名又は記名は必要でなく、これは株券の譲渡において常態とする処で、補充権の行使が省略されているものである。債務者会社も従前このような事例で名義書換に応じている。と述べた。<立証省略>

債務者訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、答弁及び異議理由を次のとおり述べた。

申請外相場が債権者天野より金員を借入れ、債権者等主張の株券をその主張する日にそれぞれ債権者天野に交付したこと、及び債務者が債権者等主張のように名義書換のために株式の呈示を受け、名義書換を拒絶したことは認めるが、相場の借入金額、弁済期日及び株券交付の事由並びに債権者天野が同杉山、同野口にその主張の株式を譲渡したことは否認する。その余の事実は知らない。元来、本件株式はすべて相場が株主たるか又は株主より処分権を与えられていたものであるが、同人は昭和二十五年十一月上旬債権者天野より債務者会社の株式を上場株とするために、

一、株式が非上場株から本上場株となるまで利息は日歩十六銭とし、その債務について振出す手形は株式上場まで書換を継続すること、二、本上場株となり払込金額以上の株価を得れば相場と債権者天野がその差額を折半すること、三、相場が株主たるか又は処分権を有する債務者会社の株券を(相場が他に債務の担保のため差入れてある株券は債務を弁済して返還を受けた上)債権者天野に寄託すること、四、債権者天野は相場から寄託された株式を将来名義書換並びに売買等一切の処分をしないこと、という条件で融資を受ける契約が成立した。そして相場は同年十二月中手形額面合計七百四十万円、利息、手数料を差引き手取金六百三十八万三千円の融資を受け、本件株式を債権者天野に交付したものである。即ち右相場は債権者天野と合意の上債務者会社の株式を株式市場の上場株となす目的で本件株券を債権者天野の手元に集中し便宜保管せしめたものであつた。しかしその目的は遂に達せられずに終つた。しかるに同債権者は右約旨に反し、前記株式の内二十三万六千八百株を自己名義に、内五万五千株を同債権者の妻の兄である債権者杉山名義に、内五万株は債権者天野の友人である債権者野口名義にそれぞれ名義書換を求めて来たが、債務者会社は相場から、右の事情で名義書換停止されたき旨の届出があつたのでこれを拒絶したものである。

債権者等は何れも真実の株主ではないから債務者会社に名義書換を請求できない。債権者天野は右のような事情で相場より本件株式の交付を受けたものであるし、又債権者杉山、同野口は同天野から株券の交付を受けていないし、仮に交付を受けたとしても、同天野が何等権利を有しないことを知りながら右株券を取得したものである。まして債権者等が債務者会社に提出した株券は、何れも裏書欄に捺印のみあつて署名又は記名を欠き裏書としての効力なく、従つて裏書の連続を欠くこととなるのである。

以上の理由により本件仮処分申請は失当であるから右決定の取消を求める。<立証省略>

三、理  由

申請外相場精一郎が債権者天野に対し、債権者等主張のごとき債務者会社株券をその主張の日に交付したことは当事者間に争がない。しかし、申請外加藤治三郎と債権者天野との間に債務者会社株券五千株がその主張の頃に授受されたことは、これを認めるに足る疏明がない。

しかして、債権者等三名よりその主張の頃、その主張する数の株券が債務者会社に対し株式名義書換のため提出されたが、同会社がこれを拒絶したことは当事者間に争がなく、債務者は本件申請においても債権者等の株主権の取得を争つている。

まず、本件各株式の裏書欄に裏書人の捺印のみあつてその記名を欠くことは、債権者等の明かに争わぬ処であるが、記名を欠く場合においても、特別の事情なき限り、株式の譲渡人が株券引渡と同時に自己の記名の補充を譲受人に委託したものと解しその補充権は株券と共に転輾し、株券を取得した者が同時にこの補充権を取得するものであつて、譲受人は株式名義書換のためそのまま会社に株券を提出したとき、その補充を更に会社に委託したものと見るべきである。この場合会社は記名を補充して株券及び株主名簿の名義書換をなすべきであつて、債務者会社も記名欠缺のみを理由として名義書換を拒絶できないものである。

ところで本件の最も重要な争点は債権者天野が果して申請外相場から貸金の代物弁済として本件株式を取得したかそれとも債務者主張のように株式の操作のため便宜上株券を保管したに過ぎないかにある。よつてこの点につき審究すると、証人相場精一郎の証言の一部、同林余所吉の証言及び成立に争ない乙第一号証に存する「名義変更又は売買譲渡等は一切致しません云々」という記載とを綜合すると、相場は債権者天野より金員を借入れるに際し、債権者等主張のように債務者会社の株券を交付したが、これは債権者等主張のような貸金の担保ではなく、むしろ債務者会社の株式の上場まで株価操作を行う便宜のためという考慮に基くもので、決して他に譲渡し、或はその名義変更を請求しない特約がなされていたことが認められる。成立に争のない甲第六号証の一乃至六の手形の右欄外に記載されている「東京港湾倉庫株式会社株式何株担保付」なる文言の存することよりして、にわかに債務を期限に弁済しないときは債権者天野が代物弁済として右株券を取得する特約が存したと断定することもできない。その他債権者等主張の代物弁済の特約を疏明するに足る証拠はない。しからば、債権者天野は商法第二〇五条の形式的要件は具備しているが、何等株主権を取得していないというべきである。

次に、債権者野口、同杉山の株式の取得の主張につき考えるに債権者野口は同天野の妻の兄であり、同杉山は同天野の友人であることは債権者等の争わない処であつて、本件弁論の全趣旨から同債権者らは債権者天野が正当な権利者でないことを知りながら株券を取得したものと認定され、従て商法第二二九条により株式を取得することはできないものである。右認定を覆すに足る疏明はない。

以上の次第で債権者等の本件仮処分を求める被保全権利は疏明なきに帰し且つ保証を以てこれを補うことは適当でないと認められるから先に債権者等の申請を認容してなした前掲仮処分命令は民事訴訟法第七五六条第七四五条二項によりこれを取消すこととし、仮執行の宣言につき同法第一九六条を、訴訟費用の負担につき同法第八九条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 谷口茂栄 田中正一 宮脇幸彦)

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